AfternoonTea創業者・鈴木陸三に聞く「豊な人生の送り方」とは?

AFTERNOON TEA JOURNAL

生活をちょっと豊かにするアイデア

スコーンやマフィン、カフェオレボウルで飲むカフェオレ。今では当たり前のティータイム・カルチャーを、日本に新たな文化として持ち込んだのは〈Afternoon Tea〉でした。その設立者であり、サザビーリーグの創業者でもあるのが鈴木陸三氏。〈Afternoon Tea〉のブランドメッセージ「spice of a day」は、なんでもない一日が心地よい刺激で満たされる、そんな日常のなかのこころのゆとりを表現したものですが、そのマインドを自身の人生でも実践し続けてきた鈴木氏に、日々の生活を楽しむ方法や豊かな人生についての考え方をお伺いしました。

PROFILE

鈴木隆三サザビーリーグ創業者

1943年、神奈川県生まれ。実業家。明治学院大学を卒業後、ヨーロッパを放浪。1972年にサザビー(現サザビーリーグ)を設立し、同社代表取締役社長に就任。1981年より〈Afternoon Tea〉を展開。その後、〈agnés b.〉や〈STARBUCKS COFFEE〉の日本導入などを手がけ、「豊かなライフスタイル」という概念を日本に根付かせた第一人者。

好奇心の強さを買われて

「私が投げかけたいことはひとつ。“好奇心”を持って自分の人生を切り開きなさいということです」

笑顔を浮かべつつやさしい声で、でも毅然として話し始めたサザビーリーグの創業者、鈴木陸三氏。鈴木氏は、〈Afternoon Tea〉を立ち上げてティータイム・カルチャーを日本に根付かせたほか、ファッションブランド〈agnés b.〉や〈Ron Herman〉、コーヒーショップ〈STARBUCKS COFFEE〉を日本に導入した立役者でもあります。「好奇心を持って人生を切り開く」を、身をもって実践してきた鈴木氏の人生は、神奈川県逗子市から始まりました。

「僕は、創業120数年という老舗小売店の三男として生まれました。家業を継ぐプレッシャーはなく、親にも『好きなことをおやりなさい』と言われたからには、好きなことを真剣にやらなくちゃいけない。そうはいっても、勉強は嫌い(笑)。好きな道もそう簡単には見つからない。けれど、幸いなことに、逗子という地域を含めて環境に恵まれましたね」

自身が大学生のときに、作家として活躍していた石原慎太郎氏(後に政治家)と知り合ってヨットチームの一員となり、ロサンゼルスからハワイを目指すヨットレースに参加することに。

「たくさんいるクルーのなかで、どうして石原さんが、僕をすごくかわいがってくださったのか。それは、僕の中に潜在的な好奇心があったからだと思います。特別ヨットに詳しかったわけではないですが、ヨットで太平洋を横断すると聞いたら、それは楽しそうだと飛びつきました(笑)。どんなことでも知りたい、体験したい、自分の中の好き嫌いを明確にしたい。そうした好奇心の強さを面白がっていただいたのでしょうね


「豊かなライフスタイル」

石原氏との出会いをきっかけにさまざまな人や場所とつながりながら、好奇心のベクトルが世界へと広がった鈴木氏。
大学卒業後に1年間、会社員を経験した後、26歳になった1969年にロンドンへ渡航しました。

「当時は、海外滞在といったらアメリカを目指す人が多かったのですが、僕はイギリスを選んだ。理由は、フランスやスペイン、ドイツやイタリアなどほかの国々が近かったから。政治や経済といった深いことではなく、さまざまな人間の普通の生活が知りたかった僕にとって、打ってつけの環境でした」

鈴木氏が滞在していた1969年から1972年のイギリスは経済的苦境に立たされており、国民は決して裕福ではありませんでした。街中を見回しても、走る車はほぼ中古車で、新車を見かけることはなく、街全体に暗い雰囲気が漂っていたそうです。

「そんななか、友人に招かれて自宅を訪れてみると、そこには素敵な空間が広がっていた。蚤の市などで見つけた家具を、磨いたりリメイクしたりして自分なりに味を出し、楽しく暮らしていたんです。彼らの外見は非常に地味でしたが、内実は自身が心地よく過ごせる空間をつくっていて、豊かに暮らす姿を目にしました。昭和にヒットした水前寺清子さんの歌に『ぼろは着ててもこころは錦』とあるけれど、まさにそれ(笑)。とても刺激を受けました」

イギリスの友人宅で目にした家具は、アンティークではなくあくまで中古品。決して豪華なものではなかったそう。

「それを、10年、20年と使い、メンテナンスをしながら自分のお気に入りへと育てていくんです。安価でも、見る目があれば素敵にしていけるものをひとつずつ探し集めて、生活をビルドアップしていく。要するに、イギリス人は生活の編集能力が高いと思うんです。生活のクオリティは自分でつくり出していくものだという気概がある。すなわちそれは、好奇心の強さの表れともいえると思います」

「手の届く贅沢」をキーワード
Afternoon Tea

鈴木氏がロンドンで得た気づきは、「人に見えるところばかりを飾り立てなくても、日々の生活のクオリティを上げることで豊かな生活を楽しむことができる」ということ。この気づきが、後に〈Afternoon Tea〉を立ち上げる原点となります。ロンドンから帰国した1972年にサザビー(現サザビーリーグ)を設立し、1981年に〈Afternoon Tea LIVING〉と〈Afternoon Tea TEAROOM〉をスタートさせました。

「その頃の日本には、高価ですばらしい陶磁器はありましたが、日常使いできるものの選択肢は少ない状況でした。そこで、僕が見てきたヨーロッパのような“無理をせずに手が届くライフスタイルの提案”に行き着いた。手の届く贅沢やあたたかさ。ほかでは見たことがないもの。自然体で無理のない気持ちがいいもの。こうした言葉をキーワードに商品を選び、同時にティールームを開くというアイデアも浮かびました。カンパーニュのサンドイッチ、ポットで入れたお茶など、さまざまな新しい試みのなかでも目新しかったのはカフェオレボウルで出すカフェオレ。そのカフェオレボウルをショップで販売する。体験と発信、その複合効果を考えたんです

〈Afternoon Tea〉という名前に込めたコンセプトは、午後のお茶を楽しむという心のゆとりや精神的贅沢の提案。その狙いどおり、ティールームでゆっくりとひと時を過ごしたり、そうした時間を自宅でも楽しもうとショップで雑貨を購入したりする人が増え、〈Afternoon Tea LIVING〉は、手の届く贅沢・ライフスタイルを提案するブランドとして全国に浸透していったのです。鈴木氏の好奇心が、豊かな人生のきっかけづくりとなるビジネスへと実を結んだ瞬間なのかもしれません。


心地よい自分のあり方

自身の好奇心を「半歩先のライフスタイル提案」という形へと具現化し、数々のヒットを生み出してきた鈴木氏。好奇心の具現化に没頭してきた理由は、何もビジネスのためだけではありません。

「出世するとか、お金持ちや有名になるとかってことじゃなくて、どんなアプローチでもいいから、好奇心を持ってどういう人生をつくり上げていくか。なるべくいろいろなことでもがきながら、自分の満足度をどうやって積み上げるかが大事だと思っています。そのためには、『なぜこれが好きなんだろう?』と好奇心を掘り下げながら、『自分はどう感じるか。何をすれば自分は喜ぶか』という問いと真剣に向き合う。これを繰り返して、自身をビルドアップしていくことで、人生観がつくり上げられていく。そうするとね、自分自身が見えてきて他人のことがうらやましいと思わなくなる。何をすれば自分が心地良くいられるかが分かってきますからね」

「それなりに生きてきたな」

好奇心を具現化したり、掘り下げてレベルアップさせたりすることは、「口で言うほど簡単なことではないけれど、『三歩進んで二歩下がる』になっても、一歩進めたらいいじゃない」と笑う鈴木氏。

「興味を持ったものに裏切られることだってあるし、スランプもある。いつも前向きではいられないから、頑張るときもあれば休憩するときがあってもいい。そのリズムのなかで、しつこく好奇心を追求してほしいんです。大きな人間になるか、小さな人間になるかってことは、どうでもいいの。『それなりに生きてきたな』と振り返ることができる人生を送れるといいな、と私自身も思っています」 

そして、好奇心を具現化しても、そこに固執しすぎないのが鈴木流。

「時代によって価値観は変化していくものだから、それを受けてどう編集していくかということのほうが大事です。たとえば、〈Afternoon Tea〉もこうあるべきというのはないですし、変化に合わせてつくり上げていくものだと思っています。じゃあ、その編集力をどう身に着けるかといったら、普段の自分の生活にいかに手を抜かないで立ち向かうか、ということしかない。真剣勝負をしないと。といっても、宮本武蔵じゃないんだから、真剣すぎなくてもいいの(笑)。考えても答えが出てこないことも、考えがまとまらずに混乱することもあるから、そういうときは焦ってもしょうがない。けれど、真剣に考える稽古は常にしておきたいですよね」

好奇心があふれる人や場所

では、どんなときも好奇心を持って生活するために、鈴木氏が普段から行っていることは?


「悪い意味でのルーティンや惰性で日々の生活を生きず、自分や社会の変化に対して興味を持つこと。僕は、“グローバル・タウン・ウォッチング”と称して、さまざまな国の都市でよく街中を観察するんですが、ファッションやライフスタイルが大きく変わっていくなと感じる瞬間を目にすることがある。それを見るのがまた楽しいんです。あとは、本を読むのもいいでしょう。僕も、本当にさまざまなジャンルの本を読んでいます」

まるで好奇心の塊のような鈴木氏ですが、過去には好奇心がわかなくなったことも。

「どうしたかって? 仕方ないなと思っていました。あんまり過度に詰めてもしょうがないし、長続きしないでしょ? もちろん、好奇心を持とう、掘り下げようという努力はしなくちゃいけないし、面倒くさいからやめたって言ったら次につながっていかない。ただ、そのときの状況もありますから、自分に都合よくやさしく、『この次頑張ろう』と思えばいいんじゃないですか(笑)。ただ、一歩一歩踏み出す努力をする人を見ていると、やっぱりすごく刺激になりますよね」

一歩一歩踏み出す努力を目にすると刺激になる。これは「人だけでなく、お店にも同じことが言える」と鈴木氏。

「好奇心があふれている人や場所には、『何か面白いことをやってそうだな』とか、『新しいことにチャレンジしているな』と、誰しも惹きつけられるものです。やっぱり輝いて見えるし、応援もしたくなる。そこには、成功だけじゃなく失敗もあるから、常に前向きに努力するというのはなかなか難しいことだけれども、一歩一歩、好奇心に向かって進み続けることを忘れたくないようにしたいですね。また、〈Afternoon Tea〉も、時代の変化を読みながら半歩先のライフスタイルを提案するような常に好奇心があふれる魅力的な場所であり続けることを期待しています」

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