『AFTERNOON TEA 『AFTERNOON TEA JOURNAL』は、心の贅沢を愉しむ方々をゲストにお招きし、生活をちょっと豊かにするアイデアやインスピレーションをお届けするライフスタイルメディアです。
5人目のゲストは、カリグラフィー・アーティストのヴェロニカ・ハリム(Veronica Halim)さん。クラシック&モダンの両スタイルを融合させた美しいフォルムで紡がれる書体と、文字芸術の枠を超えて次々に創造・提案される斬新なライフスタイリングは“ヴェロニカ・スタイル”として独自の地位を確立し、世界中のフォロワーから熱い支持を集めています。Afternoon Tea LIVINGでは、ショッピングバッグを筆頭とする定番雑貨群に彼女のアートワークを採用。そんなヴェロニカさんの創作活動やキャリア形成に迫る全8回の連載コラムをお愉しみください。最終回となる第8回目は、生成AI技術が台頭し、アート業界を含む社会全体の産業構造が劇的かつ急速に変化するなかで、カリグラフィーに今後期待される意義や役割を、ヴェロニカさんと一緒に考えました。
ヴェロニカさんが活躍するクリエイティブ業界をはじめ、世界中で今、生成AI(人工知能)技術の急速な発展や利活用が進み、業務効率化・生産性の向上・新たな価値の創出など、産業構造に多大な影響をもたらしています。ヴェロニカさんは、こうした急速な発展途上にあるデジタル社会にあってこそ、ハンドクラフト・マーケット、とりわけカリグラフィー・アートの存在意義がますます高まっていると主張します。
「日本で"コスパ”・“タイパ”といったワードが流行しているように、すべての事柄にインスタントな利便性が求められるテクノロジー社会においては、手間がかかる不完全なタッチのハンドクラフトを軽視する風潮が強くなっているのかもしれません。しかし私は、このような時代だからこそ、その唯一無二の価値が徐々に高まってきていると実感しています」 「生成AI技術の進歩を見守るのはとてもエキサイティングなことですし、SNSやメッセージアプリといったデジタルコミュニケーションツールがあるからこそ、私の創作活動に関する発信や世界中の人々との情報共有が可能です。しかし、そうしたテクノロジーの発展に感謝し賞賛するのと同じ熱量で、私は手づくりのもの・手書きのものを大切にしていきたい。デジタルメイドによるアート作品が氾濫する世の中だからこそ、深い知識と高いスキルを持った職人が生み出すハンドメイド・アートの希少価値は今後ますます高まります。手ざわりや情緒のある人間的な作品は、機械には完全に再現できないと思うからです」
手書きの文字には、書く人のパーソナリティをはじめ、その時の感情や体温といったさまざまな人間的要素が宿ります。手書きのメモ・ラベル・手紙やハガキ・結婚式や誕生日を祝うグリーティングカードといった意思伝達手段としてはもちろん、名刺・広告・パッケージなど企業のブランディングツールとして起用される場合にも、カリグラフィーは、メッセージを発する人と受け取る人との親密な関係性を即座に築く重要な媒介役となるのだそうです。
「カリグラフィーは人の手でつづられる極めてパーソナルな芸術であるからこそ、人々に与える影響はとても特別なもの。喜び・親しみやすさ・懐かしさといった温かみや、詩的でロマンティックな感情、さらに癒しさえももたらしてくれます。普通の会話や日常のコミュニケーションに特別な意図や感情をもたらす芸術なのです。そのアプローチはとても静的なものですが、心に直接語りかけ、魂に響きます。だからこそ時代を超えて残るものであり、どんなに世の中が変わっても人々を魅了し続けると信じています。またカリグラフィーは、伝統芸術としての価値だけでなく、ライフスタイルに溶け込みながら独自の進化を遂げ続ける、現在進行形の現代アートとしての側面も持っているのです」
そんなカリグラフィー・アートの代表的な担い手としてさまざまな挑戦を続けているヴェロニカさんは、そのマインドフルネス効果も重要視しています。
「自分らしく美しく、無心になって文字をつづる作業に没頭することで、私は、ライフスタイルにおけるデジタルとアナログのバランスをとろうとしているのかもしれません。スローなプロセスに身を委ね、ゆったりと時間を過ごし、不完全だからこそ生まれる不器用な美しさに感謝することが必要なのです。クリエイティブであり続けるために、自らの手で文字や絵を描くアナログ的なプロセスにしばしば立ち戻る……それは私がきちんと地に足をつけ、自身の目標や役割を見失わず、仕事の核心と常につながり続けるために欠かせないことなのです」
クライアントやフォロワーはもちろん、何より自分自身のために精力的な創作活動を続けているヴェロニカさん。常に好奇心と情熱を持ち、自分とオーディエンスとのつながりを意識しながら、誠実な姿勢で創作に取り組んだ芸術作品は、“本物”として見る人の心に響き、時が経ってもインパクトを与え続けることができると信じています。そんなヴェロニカさんが、カリグラフィーを通して目指す将来の目標を聞きました。
「世界各地にブティックを開き、私たちが手がける作品やプロジェクトを紹介することで、人々にリアルな存在感を示し、確立するのが私の夢です。カリグラフィーや紙製品の質感・ディテール・クラフツマンシップなど、写真や動画では伝え切れない魅力を実際に体験することは、多くの人にとって本当に特別で貴重な時間になると思います。いつかこの長年の夢が叶うことを願い、私は今日もペンをとり、静かにデスクに向かいながら、探求の旅を続けています」
クリエイティブ・ディレクターとして最先端のデザインビジネスに携わりながら、カリグラフィーをこよなく愛し、楽しみながら日々の研鑽を怠らず、多くの愛好者とともに精力的な啓蒙アクションを続けるアーティスト、ヴェロニカ・ハリムさんのライフヒストリーを探求する全8回連載の旅、お楽しみいただけましたでしょうか? AFTERNOON TEA JOURNALでは、今後も国内外で活躍するクリエイターの魅力やライフスタイルをご紹介し、毎日の暮らしを豊かにするTIPSのシェアを続けていきます。引き続きお楽しみに!