『AFTERNOON TEA JOURNAL』は、心の贅沢を愉しむ方々をゲストにお招きし、生活をちょっと豊かにするアイデアやインスピレーションをお届けするライフスタイルメディアです。

5人目のゲストは、カリグラフィー・アーティストのヴェロニカ・ハリム(Veronica Halim)さん。クラシック&モダンの両スタイルを融合させた美しいフォルムで紡がれる書体と、文字芸術の枠を超えて次々に創造・提案される斬新なライフスタイリングは“ヴェロニカ・スタイル”として独自の地位を確立し、世界中のフォロワーから熱い支持を集めています。Afternoon Tea LIVINGでは、ショッピングバッグを筆頭とする定番雑貨群に彼女のアートワークを採用。そんなヴェロニカさんの創作活動やキャリア形成に迫る全8回の連載コラムをお愉しみください。第3回目は、趣味として始めたカリグラフィーにビジネスチャンスを見出し、やがてアーティストとして独立するまでの軌跡を追います。

悠久の文字の歴史に惚れ込み、
静かに熱く、
カリグラフィーのスキルを磨く

カリグラフィー(文字アート)の歴史は、人類初の文字体系が発明されたといわれている紀元前4,000年ほど前までさかのぼります(諸説あり)。絵画的な表現に始まり、やがて抽象的な記号として、文字は宗教や歴史を表現し広く世に伝えるための重要な記録手段に。学生時代にグラフィックデザインを専攻していたヴェロニカさんは、古代アートやハンドクラフトの歴史を学ぶうち、太古の昔から人類がさまざまな技法やスタイルを磨き続けてきたカリグラフィー・アートに深い興味と関心を抱くようになります。

シュメール人が考案したとされるくさび形文字(左)や古代エジプトの象形文字(右)など、文字の歴史ははるか紀元前までさかのぼります。古代人の手でひとつひとつ丹念に石へと刻み込まれた文字は、現代まで伝わるカリグラフィー・アートの起源

「ごく近代まで、人類にとって文字は特別な存在だったと思います。書くことも読むことも、一部の特権階級にしか許されない貴重なものだったからこそ、レタリング(文字自体の創作)やタイポグラフィ(文字をデザインして読みやすくする創意工夫)の長い歴史を経て人々が綴ってきた手書き文字の美しさ・優雅さ・ディテールの緻密さなどに強く惹きつけられました。
カリグラフィーの世界を探究するうちに『自分もこのような美しい文字を書いてみたい!』と強く思うようになったのは、とても自然なことでした

プロのカリグラフィー・アーティストとして立身した今でも、毎日の基本的な修練を大切に書き続けるヴェロニカさんの立ち振る舞いはとても美しく「彼女のたたずまいこそ生きるお手本」と絶賛するワークショップ受講者も

こうしてカリグラフィーを趣味とするようになったヴェロニカさん。会社経営のかたわら、オンラインでレッスンを受けたり、ワークショップに参加したりして基礎知識やテクニックを習得し、毎日3〜4時間かけて練習しながら自己研鑽を続け、スキルを磨いていったそうです。

「アルファベットや単語、シンプルな線やパターンまで、あらゆるものを書いて練習しました。憧れのアーティストのサンプルを模写したり、昔のパッケージデザインからインスピレーションを得た言葉を書いたりすることも。厳しいルールは設けず、自分にプレッシャーをかけずに、ひたすらにプロセスを楽しみながら、目に留まったものは何でも書きました。私にとって、カリグラフィーは瞑想の儀式のようなものだったのかもしれません。リラックスしながら、ひと筆ひと筆ゆっくりと集中して描くことができるため、極上の癒しの時間でした。せわしないデジタル社会から意識的に距離を置き、自分自身と向き合うことができる大切なひとときだったと思います」

趣味からビジネスへ。
カリグラフィーの可能性にチャンスを見出す

“西洋の書道”ともいわれるカリグラフィーは、日本におけるペン習字のような存在でしょうか……ヴェロニカさんが趣味とし始めたころはあまり人気がないと感じていたそうです。しかし、彼女が作品や練習風景をSNSでシェアするようになると、それを見た友人たちから「私にも教えて!」と依頼されるようになります。

2014年、ヴェロニカさんが日本でワークショップを開催し始めたころのワンシーン。お茶やスイーツとともに会話を楽しめる彼女のワークショップは“ギャザリング(Gathering)”とよばれ、世界中で大人気に ©Veronica Halim

「親友たちのために、お茶会を兼ねた小さなワークショップをたびたび開くようになったんです。さらに、作品を見た私のビジネスクライアント、特に結婚式を控える人々から『結婚式の招待状をデザインしてほしい』と依頼を受けるようになりました。 最初は趣味の延長線上としてカード製作を請け負っていたのですが、思いのほか好評で、『もしかしてこれは本格的なビジネスになるかも!』と考えるようになりました

そうしてカリグラファーとしての活動を始めたヴェロニカさんが手がけたいちばん最初のプロジェクトは、クライアントの誕生日パーティの席札を書くこと。ゲストひとりひとりの名前を手書きしたシンプルなカードが、テーブルの装飾や会場全体のムードを決定づける重要なキーコンテンツとして魅力を発揮するさまを目の当たりにし、心の底から感動したのだそうです。

ワークショップと並んでヴェロニカさんが主力事業とするウエディングプロジェクトの一例。世にも美しいネームカードやメニュー表は、最高のおもてなし空間を演出 ©Veronica Halim

「驚いたことに、ほとんどのゲストが私が書いたカードを記念品として持ち帰ってくださったんです。手づくりのものに感謝しながら心を通わせ、大切な時間を共有する人々の笑顔を見て、本当にうれしくなりました。『こんなに喜んでいただけるなら』と、私のカリグラフィーを自分の会社の事業のひとつに据えて、じっくり取り組んでいこうと心に決めた瞬間です」

次回、5月28日(水)に公開予定の連載第4回目は、Afternoon Tea LIVINGとのコラボレーション・プロジェクトに関するエピソードをお届け。多くのファンに愛され、ご本人も大のお気に入りだという定番アイテムや今年の新作ラインナップをお届けします。お楽しみに!

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