『AFTERNOON TEA JOURNAL』は、心の贅沢を愉しむ方々をゲストにお招きし、生活をちょっと豊かにするアイデアやインスピレーションをお届けするライフスタイルメディアです。

5人目のゲストは、カリグラフィー・アーティストのヴェロニカ・ハリム(Veronica Halim)さん。クラシック&モダンの両スタイルを融合させた美しいフォルムで紡がれる書体と、文字芸術の枠を超えて次々に創造・提案される斬新なライフスタイリングは“ヴェロニカ・スタイル”として独自の地位を確立し、世界中のフォロワーから熱い支持を集めています。Afternoon Tea LIVINGでは、ショッピングバッグを筆頭とする定番雑貨群に彼女のアートワークを採用。そんなヴェロニカさんの創作活動やキャリア形成に迫る全8回の連載コラムをお愉しみください。第1回目は、カリグラフィー・アート、そしてその第一人者として活躍するヴェロニカさんの魅力をクローズアップ。

手書きの文字は自らの分身。
自分を見つめ直し、
心に平安をもたらすカリグラフィー

結婚式のウェルカムボードやバースデーカード、街なかにたたずむ素敵なレストランのサインボードなどでよく見かける、流麗なラインで美しく装飾された手書き文字によるアート、それがカリグラフィーです。その歴史はとても古く、ギリシャ語の“calli(美しく)”と“graphein(書くこと)”を合体させたワードが語源といわれ、西洋の書道ともよばれています。

Veronicaさんが手がけたカリグラフィーの一部。自然界の有機的な形やパターンにインスパイアされた、流れるような美しい書体スタイルが特徴

カリグラフィーは、“文字を書く”という人間生活における基本的行動を芸術の域まで高めたアートの一種。現代では、ニブ(二股に割れたペン先)をペンホルダーにセットし、先端にインクをつけて書くのが基本的な手法です。ニブやペンホルダー、インクの色・素材・濃度や、書きつける紙の種類といったツールの選定のほか、書く時のペンの傾き・角度・筆圧を調整することでストロークを自由自在にコントロールできるため、たとえ同じテキストやメッセージを綴っても、個性・好み・バランス感覚など、書く人が持つクリエイティビティが作品に如実にあらわれる、非常に奥行きの深いアートです。

ヴェロニカ・ハリムさんは、そんなカリグラフィー・アートの第一人者。上品でクラシックな趣きと、軽快でモダンなタッチをバランスよく兼ね備えた優美で繊細な作風が世界中の人々を魅了し続けています。数多くのグローバルクライアントを抱えるほか、世界各国の都市でワークショップを頻繁に開催し、後進の育成にも熱心。古くは人類が文字を使って表現を始めた紀元前3000年にまでさかのぼることもできる“人類全体が誇る伝統芸術”・カリグラフィーは、急速に進化を遂げるデジタル時代にあって、ヴェロニカさんら現代の継承者たちの尽力によって、今またその存在価値を高めています。

ヴェロニカさんがひとたびペンを掲げると、彼女を包んでいる空間は一変。シン……とした静寂に包まれたあと、流麗なストロークに合わせて空気が踊り出すのがわかります

手書きの文字にはひとつとして同じものはありません。書き手の性格や人柄が映し出され、その人自身を象徴するもの。また、キーボードで打ち出す文字と違って、紙に書いたインクは消せませんから、書く時は心を研ぎ澄ませ、目の前に集中する必要があります。カリグラフィーに没頭していると、まるで森の中にいるような静けさが訪れ、それがインスピレーションとなって指先からあふれ出してくるよう。そのなんともいえない至福の感覚は“瞑想”に近いのかもしれません」

特別な日も、何でもない日も。
カリグラフィーは、
日々の生活を豊かにするスパイス

ヴェロニカさんが傑出したカリグラファーとして世界中から支持される理由のひとつといえるのが、高い応用力と提案力。カリグラフィーを“文字のアート”としてだけでなく、日々の暮らしの中に生かす豊かなアイデアを持ち合わせながら実践し、幅広く発信し続けています。カードや手紙といったペーパー作品はもちろん、キャンバスになり得る素材や活用シーンの可能性を広げることで、カリグラフィーを衣食住に関連する重要なキーコンテンツとして昇華させています。

代官山蔦屋書店にて2025年4月に実施されたカリグラフィー・アーティスト6名による合同展示会「DAIKANYAMA Drawing」。ヴェロニカさんは新著『カリグラフィー・ライフ&スタイリング』(主婦の友社刊)とともに、日本の和菓子からインスパイアされて描いた原画作品や、オリジナルのペーパーアイテム群を販売し好評を博した

「練習を重ねて次第に自由に書けるようになった時、カリグラフィーに自分のデザインスキルや大好きなスタイリングアイデアを結びつけたら、新たに作り出せるものがたくさんあることに気がついたんです。私はワークショップ・Instagram・著書などを通して、カードはもちろん、ラッピング・ギャザリング・インテリアデコレーション・ファッションなど、カリグラフィーを使ったさまざまな愉しみかたをご提案しています。毎日の暮らしのなかでもカリグラフィーを活かして生活を豊かに彩る工夫をみなさんとともに考え、実践していけたら、こんなにうれしいことはありません

次回、5月14日(水)に公開する連載第2回目は、日本初公開! カリグラフィー・アーティストになるまでのヴェロニカさんの人生の軌跡を振り返ります。お楽しみに。

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子どもの頃からクリエイティブ! ヴェロニカさんの半生