「メトロポリタン美術館、通称『THE MET』(以下、The Met)は世界最大級の美術館のひとつであり、5000年以上にわたる世界各地の美術品150万点あまりを所蔵しています」と、語るのは美術手帖総編集長の岩渕貞哉。国内外のアートシーンに精通する岩渕はThe Metの成り立ちと歴史が、ヨーロッパの美術館と大きく違うことを解説する。
「The Metのコレクションは、王族や貴族のコレクションではなくアメリカ国民の力によってつくり上げられ、いまでもニューヨーカーやアメリカ国民だけでなく、世界中の観光客に感動を与え続けています。国民の熱望によって生まれた私立のThe Metは、当初コレクションも建物もなく、基金での購入や個人コレクターの寄贈など関係者の尽力によってコレクションを増やしていきました。そして現在では、古今東西の美術品が150万点以上も収蔵されるまでに拡大したのです」。The Metが開館した1870年は、国を分断した南北戦争が集結してからわずか5年後のことだ。
「実際に作品を鑑賞していてもThe Metは特別な空間だと感じます。例えば印象派の作品。パリにあるオルセー美術館やオランジュリー美術館をはじめ、印象派の作品をまとめて鑑賞できる美術館は世界にも多いです。けれども、The Metは先史時代から現代の美術まで、数千年にわたる長い歴史を取り扱っており、印象派の作品もその人類の壮大な歴史の流れのなかでとらえることができる。とはいっても、実際に1日で見切ることはむずかしいですが、その時間の流れを感じながら見ることは特別な体験と言えます」。
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