ダイニングシーン バイヤー奥西彩が、毎月フードクリエイターをゲストに迎え、お菓子やお料理でアフタヌーンティーの器を彩っていただき、そのレシピと食にまつわる話題をお届けします。
プロフィール
渡辺有子(Yuko Watanabe)
東京生まれ。大学卒業後、料理家アシスタント、編集プロダクションでの勤務を経て、料理家として独立。書籍、雑誌、広告、テレビ番組、イベント等の幅広い分野で活躍する。2015年、料理教室『FOOD FOR THOUGHT』をスタートし、17年、自らディレクションを手がける同名ショップをオープン。著書に『365日。』『サンドイッチの時間』など多数。
instagram @yukowatanabe520
「ちょっとずつ小皿に盛り付け、おままごと感覚でいろんな料理を味わえるようにしました。大根、干し柿、牡蠣といった冬の食材の組み合わせや食感を楽しむ、団らんの席にぴったりのおつまみです」
<材料> 2〜3人分
干し大根(輪切り) 20g
柚子 1/2個
蜂蜜 小さじ1と1/2
粗塩 小さじ1/4
<作り方>
1.干し大根は熱湯をたっぷり注ぎ、10分ほど浸して戻す。粗熱を取り、手でしっかり水気をしぼる。
2. 柚子の皮を1/4個分細切りにし、果汁は1/2個分全てしぼり、種を取り除く。
3.①に粗塩をふり、②と蜂蜜を加えてざっと和え、ラップを密着させて20分以上おき、馴染ませる。
01.干し柿とブルーチーズ
やわらかくしたブルーチーズと包丁で叩いたあんぽ柿を混ぜる。クラッカーなどを添えて。
02.ナッツバター
やわらかくした有塩バターをラップなどでボール状に丸め、刻んだアーモンド、クミンシードを周りにつける。クラッカーなどを添えて。
03.カヌレの生ハム巻き
カヌレを半分に切り、生ハムを巻いて粉山椒をふる。
04.牡蠣のハーブマリネ
下処理して水気をふいた牡蠣をよく熱した鍋におき、はがれてきたら裏返し、白ワイン少々をふって蓋をして2分ほど加熱する。
刻んだ赤玉ねぎとディルやチャービルに赤ワインビネガー、オリーブオイル、粗塩、黒胡椒を混ぜ、加熱した牡蠣をからめてマリネする。
奥西彩(以下、奥西):渡辺さんがディレクションされているお店「FOOD FOR THOUGHT」で扱っている器はシンプルなものが多い気がします。今回、九谷焼の色絵の器を使ってみていかがでしたか?
渡辺有子(以下、渡辺):これまでは基本的には食材の色が映える白やモノトーンの器を使ったり、お店でも扱っていました。でもこの1、2年、家での時間が増えてきたことで感じるのは、ポジティブな気持ちになれるようになのか、なんとなく明るい色のものにも目がいくようになりました。今まで取り入れてこなかった新しいものを知ることや使うことの楽しさを感じるようになって、だんだん許容範囲が広がってきました。だから色や柄ものの器の企画を組んだり、そういう作風の作家さんに依頼したり。シンプルなだけがいいというわけではないし、もっと楽しい選択肢があってもいい。私の中で少し変化が生まれたような気がします。
奥西:九谷焼はまさに色も絵柄もある器でしたが、組み合わせる料理はどのように思い付いたのでしょうか?
渡辺:料理が先にあってどの器に盛り付けるかではなく、器から料理を考えました。小皿を選んだので、一つで完結するというよりは、何と何を組み合わせようか、どう置こうかと、食材で遊ぶようにちょこちょこ盛り付けておままごとをする感覚で、いろいろな料理を味わえるようにしました。器がたくさん並ぶ楽しさを感じてもらえればと思います。
奥西:具体的には何をどうやって盛り付けるか、器と料理のバランスはどうやって決めていくのでしょうか?
渡辺:この小さな器の中に色も柄も、鳥や花の絵も入っているので、あえて色と色をぶつけて、器に使われてる赤や緑、黄色など食材の色を少しずつ拾っていきました。
奥西:柚子の皮の黄色と九谷五彩の黄色がマッチして、大人っぽい仕上がりですよね。
渡辺:色の他にも、季節のものということが前提にあります。年末年始という時節柄、仕事もお休みで普段よりゆったりとお酒を飲んだりする時間が増えるので、いわゆる冬の旬の食材というだけでなく、家族や親戚、友人との集まりや団らんの席にふさわしい、お酒にもよく合う気軽につまめる料理がいいなと思いました。
普段から料理を考えるときには、季節の食材の次に、色合い、食感を重視します。中でも食感は美味しさに直結するのですごく意識します。全部滑らかなもののときもあれば、その中に少しリズムが出るように反比例する硬いものを入れてみたり、工夫しながら取り入れています。
今日のメニューの場合は、まずは冬の食材から、干し大根、干し柿、牡蠣と思いつくものを書き出します。それから小皿に合わせて、そんなにたくさんバクバク食べるものでなく、お酒のおつまみ的に少しずつ食べておいしいもの、作り置きしてちょっとずつ出せるようなものということで組み合わせや調理の仕方を考えていきます。干し大根は、茹でると柔らかくなってしまうので、お湯で戻してあえてコリコリした食感を残しました。
奥西:この九谷焼のシリーズは、今回の料理をヒントに小皿や豆皿にちょっとずつ盛り付けて使ってもらえたら嬉しいです。でも何に使うかはさておき、モチーフや絵柄も可愛いので、1枚ずつ手に取って、お皿自体も遊び感覚で集めてほしいですね。大きいサイズのお皿ならトーストをのせてもいいですし、ティーポットやマグカップは気軽に普段使いしてもらえると思います。
奥西:少しずついただく料理をいろいろご提案していただいた中でも、カヌレに生ハムという組み合わせは驚きました。なかなか思いつかないアイデアですよね。
渡辺:私はどちらかといえばカヌレが得意ではなく、まるごと一個は食べられません。そのカヌレをどう克服するかということで思い付きました。たまたま撮影の現場にカヌレと生ハムが両方あって、生ハムはよくメロンに巻いたり、グリッシーニに巻いたりするから、試しにカヌレに巻いてみたら美味しかったんです。自分の中でヒットでした。カヌレだけだとデザートですが、生ハムを巻いたらおつまみになる。今はまだ難しいかもしれませんが、ケータリングでも気軽につまめて食べた人がみんな驚くから、その反応も面白い。食材を組み合わせるとき、奇をてらうのはあまり好きではありませんが、意外性や面白さという意味でも、この2つは相性がよかったので、さらにそれを繋げる役割として山椒も加えました。
奥西:そこに山椒を効かせているのも新鮮です。洋っぽい食材なのにハーブ系ではなく、和の薬味を合わせるのですね。
渡辺:さらに意外性をもって繋げるというのは、料理を考えるときの基本です。繋ぎ役を何にするか考えて、アクセントにするのか、さらりと馴染ませて目立たせないようにするか、その時の食材や調理法によって変えています。
奥西:この意外な組み合わせを話題に団らんの場の会話も弾みそうです。
渡辺:そうなんです。食事の時間って、一緒に食べる人同士のコミュニケーションの場でもあるので、ちょっと人を驚かせたいという気持ち、これ何って言ってほしい、言わせたい、そういう好奇心も料理を作る上では大事な要素ですよね。自分が楽しみつつ、人にも面白がってもらえるようなひらめきは料理をするヒントになると思います。
奥西:渡辺さんはご自身でお店もディレクションされていますが、器を作る時や作家さんの個展を開催する時、どういう視点で紹介していらっしゃいますか?
渡辺:使ってほしいと思っているので、日常に使いやすい器を提案しています。万能に使えるもの、なるべくならあまり用途を限定しないもののほうがいい。ご家庭ではそこまで収納場所もないでしょうから、いろいろ使えるほうが嬉しいですよね。特に女性は食べ物にしてもちょっとずついろんな種類を味わいたいという人が多いのと同じで、あれにもこれにも使えますよとおすすめすると、皆さん「それなら」と買ってくださいます。
奥西:では、渡辺さんが器を買う時の決め手は何ですか?
渡辺:持ったときの感覚が自分の中でしっくりくるかどうかです。作家さんのものだったら、ちょっとした重みとか厚さとか。その代わり見た目のあまり細かいことは気にしません。だから店頭でずっと横から眺めているだけのお客様には「持ってみたらいいと思いますよ」とおすすめします。やっぱり自分の手で持ってみてしっくり馴染むものがいいじゃないですか。
奥西:確かに器は使うものですから、感触は大事ですね。
渡辺:日本の食文化は器を手に持つ文化なので、自分で手に取ってしっくりくるもの、小皿を持っては食べませんが、でもやっぱり手で持ってみると感覚的にわかるような気がします。
奥西:手に取る前段階として、これにこういう料理を盛り付けたいなとか、この作家さんの作品の佇まいが好きとか、どういった器に惹かれますか?
渡辺:ぱっと見ていいなと思う器があったら、どんな料理が映えるか、どんな料理と合うか、二つ、三つ想像がつくものを買います。考えても思い浮かばなかったらやめます。あと絵皿のときは料理を盛ったら、見える範囲が限られるので、どういうふうに見えるか、お皿に自分の手を使って、隠したりしながら見え方を確認してみたりもします。
奥西:料理のインスピレーションが湧くかどうかなんですね。
渡辺:逆に個性が強すぎるものや主張しすぎているものはあまり買いません。料理を盛ったときにトゥーマッチな感じになってしまうし、飽きるのも早いような気がします。
奥西:私はまだそこのさじ加減を模索中です。以前、FOOD FOR THOUGHTさんで購入した器は、最初は少しアクが強いかもしれないと思ったのですが、今では毎日使っています。ちょっとハードルが高いかなと思いきや、使ってみたら意外と馴染むということもあるので判断するのが難しい。なので最近は迷ったら買うようにしてます。
渡辺:自分の持っている器を把握しておくといいと思います。他の器や普段の食卓に合うか合わないか。テーブルの素材もどんな木か、赤っぽいのか、白っぽいのか、そういう色味も関係してきます。
奥西:料理から始まって、ご自身のお店を持ち、器までディレクションされていますが、何かそこに行き着くきっかけはあったのですか?
渡辺:きっかけは料理教室です。それまでは雑誌など撮影のお仕事が中心でした。そういう料理の仕事をしている中で作家さんと知り合ったり、繋がりはできましたが、それ以上の関係ではありませんでした。料理教室を始めてみて、生徒さんが料理だけを習いたいのではないということがわかったんです。もちろん料理のレシピや作り方のコツを知りたいというのが第一ですが、どう盛るかや盛った器をお家でも使いたいと思っているのだと知りました。やっぱり料理が好きな人は器にも興味があるようで、「先生、これ売ってないのですか」という声が多くなってきたので、アトリエの棚でちょっと売り始めたんです。
料理から離れなければ、料理家の仕事は別にレシピを考えるだけではないなと思って。今では料理家がやっているお店ということで、料理に関連したテーブル周り、ダイニングを飾るためのランプシェードやフラワーベース、エプロンなどを展開しています。作家さんとのそれまでの繋がりをようやく生かせるようになりました。料理家としての積み重ねがちょっとずつ広がってきて、枝分かれというよりは、円が少しずつ広がっていった感じです。
奥西:料理を取り巻く世界ということで言うと、渡辺さんの『花と料理』は、私の好きなもの、ツートップがテーマになっているお気に入りの本です。どこか花と料理は通じるところがあるように感じます。
渡辺:結局、食材も土から生まれていて、野菜も植物もそうですよね。
奥西:器だってもともと土ですし、共通していますね。この本が本当に好きで、今日は疲れたなぁという日には、ページをめくって、その日が素敵なモチーフだとちょっと嬉しくなるんです。美味しいお料理もきれいな花も人を元気にする力があるような気がします。
Photographer:Wakana Baba
※写真撮影時以外はマスクを着用し、十分な距離を保ち安全に考慮しております。
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